【夢日記】見てはいけないカルテの夢

見てはいけないカルテの夢

これは結構な悪夢だった。

私は多分中学生か高校生で、職場体験で病院に来ていた。私の他に4~5人ほど同じ学校から職場体験に来ていて、一つのチームとして指導されていた。全部で2週間くらいの日程で、病院に泊まり込みだった。病院の仕事は書類の整理やオペの準備を手伝ったり、回診について行ったり、一人で入浴できない患者の体を清拭したりと多岐に渡った。

ある日オペの準備のために患者に麻酔を投与していると(これも職場体験の学生にやらせることではないと思うが)、一緒に職場体験に来ていた学生の一人が、ちょうど患者の腰のあたりに何かペラペラの紙があるのを見つけた。患者さんの体を持ち上げてその紙を取るとどうやらカルテのようだ。一番上に「患者様カルテ」と書いてあり、その横に恐らく個別の識別番号のような数字が書いてある。だが書いてある内容はカルテというより履歴書に近いようなもので、学歴欄・職歴欄・賞罰欄まである。主治医のコメントも長々と書いてあった。患者の顔写真も貼ってあるが、その写真には何やら赤いインクのような血のようなもので大きく〇印が書かれており、目のところも隠すように塗りつぶされていた。

なんだか気味が悪くなり、最初に発見した学生と私とでそのカルテを職場体験の指導を担当していた看護士の女性に渡した。「これは何ですか?他の患者さんのベッドにありましたよ」と言うと、その看護士はわなわなと震えだして、「あなたこれどうしたの?どこで見つけたの?」と声にならないような声で訊ねてきた。最初に見つけた学生が経緯を説明すると、看護士は安堵の表情を浮かべて「これ、ちょうど紛失して探していたの。うちはまだまだ電子カルテじゃないから、なくなったら困るのよね。ありがとう、作業に戻って頂戴」と言った。

そのカルテに書かれている患者のことはよく知っていた。80歳くらいのおじいさんで、何回か話したり清拭をしたこともあった。気さくで、何ごとにも大らかで、今のお年寄りの方には珍しく(といったら失礼かもしれないが)ノートPCやスマホもスムーズにとはいかないものの活用されていたことを覚えている。スマホの使い方を教えたこともあった。確か膝を痛めており、普段は車椅子、リハビリの時は松葉杖を使っている人だった。

職場体験の最終日の一日前、例のカルテの患者さんが病室を移動することになった。それまでは4人部屋で入院されていたが、家族の方の要望で個室へ移動することになったそうだ。

看護士が「〇〇さんはいぞ…家族の方のご要望で個室に移動されます。3階の304号室です」と言っていた。今一瞬「遺族」って言いかけただろ、不謹慎な…と思った。確かに正直その患者さんは高齢ではある。でもピンピンしているし、これもこういう言い方は良くないかもしれないが、あと10年20年くらいは元気に過ごされそうだと思った。

また、304号室というのも気になった。というのも、この病院は「XX4号室」「XX9号室」は縁起の悪い数字だからない、と最初に説明されたからだ。2階~5階までが病室で、2階を案内された時も204号室、209号室はなかった。そして5階まで同じレイアウトになっていると説明があったのだった。

いざ患者さんのベッドを移動させて3階に上がると、隠し扉の奥のようなところに確かに304号室というのがあった。その部屋に患者さんを入れて色々と患者さんが持ち込んでいる私物を置いたりする。移動を始めて一通り終わるまでだいたい20分くらいだっただろうか。病室を出たところで、看護士は誰にいうでもなく「ごめんなさい」と小さく呟いた。

2階に下りると、先ほどの患者の家族の方を名乗る女性が来られていた。50~60歳くらいで、おそらく娘さんなのだろう。看護士はその女性に気づくと、「どうも」と軽く会釈をした。女性は「父が長い間お世話になりました」とまた深々と頭を下げた。私はまだ、なんでもう亡くなったみたいな言い方をするんだろうと思った。

その時は、変な人だなくらいにしか思っておらず、看護士が頭を下げていたので我々学生グループもあわせて頭を下げた。その家族の方も病院まで来ておいて、お見舞いをするでもなく帰って行ってしまった。まぁどうせ明日で終わりだからどうでもいいやと、あまり深く考えることはしなかった。

翌日の職場体験最終日。目を覚ますと担当の看護士が、何か言いたいことがあるがそれを我慢しているような表情で「昨日304号室に移動した〇〇さんが今朝亡くなられました」と伝えてきた。

私はここで諸々のひっかかりが組み上げられ、まるで点と点が繋がるように、患者さんは家族の方に頼まれて安楽死という処置をされ、ただしそれをおおっぴらに言えないんだと合点した。もしかしたら思い違いかもしれないが、そうとしか思えなかった。

現代日本でそんなことを、ましてや学生に言える訳がない。そんな私に気づいたのか、看護士が制するように手を前に突き出した。私はその不思議な圧のようなものに押され何も言えなかった。

2週間の職場体験が終わると、事前に病院側に提出していた顔写真付きの履歴書が返却された。担当の看護士からのコメントがついていた。忙しいながらも学生一人ひとりをしっかり見てくれていたんだなぁなどと関心した。

ただ学生の一人、最初に例のカルテを発見した子は、顔写真のところに大きく〇が描かれていた。本人は「やった、なんか俺だけ評価高いんじゃねw」と笑っていたが、〇印にどのような意味があるのかは特に説明されなかった。ただ、私は何か言いようのない、漠然とした恐怖のようなものを感じた。

そして看護士が「大変な二週間だったと思いますが、この経験を活かして、残りの学校生活や社会経験を~」みたいなありきたりなことを言って、最後に「この後一人ずつ良かったことと悪かったことをお伝えしますので、順番にミーティングルームへお呼びします。先に終わった方から帰って結構ですよ。お疲れ様でした」と言った。

そして一人二人と呼ばれて行き、〇印の彼が呼ばれたのは最後だった。