肌の色と表現とポリコレ

絵師よ、ポリコレに謝罪するな!ルリナの二次創作でまたポリコレが騒ぐ。

上記のまとめを読みました。

イラストレーターさんがポケモンに出てくるルリナという褐色のキャラクターを描いて公開されたのですが、(おそらく)水彩で描かれたのもあり実際の肌の色よりも明るくなっていました。それをご覧になったユーザーらが「彼女をなぜホワイトウォッシュした?」などと抗議、挙句の果てには「アジア人が」などの発言も出ている有様です。

まず私の意見を表明しておくべきだと思うので書きますが、私は作者さん非はなく削除も謝罪もする必要はなかったと思います。ただしこういう件に関してはデリケートな問題ですし、個々人によって考え方も捉え方も違います。以下に私が「非はなく削除も謝罪も必要ない」と思った理由を書きますが、あくまで私の考えでありこれが正しいとかこうあるべきという主張ではありません。また、できるだけ客観的に見ているつもりですが、私もクリエーターということもありイラストレーターさんの肩を持つようなバイアスが掛かっていると思います。

以下に便宜上「ポリコレ派」という言葉を使いますが、これは「今回の騒動で攻撃的な発言をした人たち」と定義させたいただきます。問題と真剣に向き合っている方たちを揶揄するつもりで使う訳ではありません。

まず問題となったイラストですが、個人的にはかなり肌の色は暗めだなと思いました。私もイラストを描きますが、かなり明るい色で肌を塗ることが多いです。私の感覚からすると、かなりしっかりルリナというキャラクターと向き合って色を選ばれたのだと思います。

そしてこのイラストの演出により、肌が明るくなるよう描写されているというのもあると思います。背景は真っ白になっていますが、膝などに光が当たっており、これは強い光の中にキャラクターがいるという演出と汲み取れます。イラストレーターのさいとうなおき先生も、背景テクの「何も描かない」という紹介で白背景を紹介されており、リムライトなどの反射光を入れて光の中にいるという演出をされていました。

実際にGoogle画像検索で褐色の方が光の中にいるような写真を見てみましたが、普段と比べてかなり明るめの肌になっているようです。私も実際にイラストを見て、「これはちょっと肌明るいな」とは思わず、むしろ「光の表現がキレイだな…」と思ってしまいました。これは、私が個人的に肌の色の問題に対する認識の解像度が低いというのもあるかもしれませんが、少なくとも強い違和感を感じるようなレベルではありませんでした。また、肌だけでなく髪や服を見ると、全体的に淡い色合いのイラストというのもわかりますね。

上記のようなことは、私がイラストを普段から書いていて、演出や背景を考慮した上でそう思うことなので、見る人すべてがこのように考慮すべきとまでは思いませんが、しかし「なぜこういう表現になっているんだろう?」と疑問に思って考察して、それでも納得いかなければ聞いてみるというのが順当なプロセスだと思うのですがいかがでしょうか。少なくとも、自分にとって不快だからといっていきなり暴言を送りつけるのは良くないと個人的には思います。

肌の色や人種の問題はデリケートなのですが、たとえば数年前ダウンタウンの浜田さんがエディー・マーフィ氏に扮した時に黒塗りメイクをした時、ブラックフェイスだと(主に)国外で話題になりました1。もちろんその人たちのプライドを踏みにじられた、侵害されたと思われるのもあるのかもしれませんが、しかし実際にはエディー・マーフィを貶したりする目的ではなくある種のリスペクトでの黒塗りメイクだったのだと推察されます。また、黒塗りが不快というのも想像に及びにくいことだと思います。

実際問題多くの日本人は私がそうであるように肌の色の問題とは無関係に暮らしてきました。もちろん国内でも肌の問題に苦しめられていた人や現在進行形で苦しんでいる方もいらっしゃるかもしれませんし、その人たちを尊重しなくても良いという訳ではもちろんありませんが、少なくとも海外と比べれば別に考えなくても何も困らない人が多いのです。それを海外が一方的に、日本の意識はグローバルスタンダードとは違うからダメだ、差別主義だ、などと言われても、私たちには私たちの文化があります。国内向けに作っているコンテンツにすらそのように言われては、正直思想を押し付けられているとしか思えません。私はそういうのは嫌です。

もしルリナを実際より肌を暗く描写してしまったらそれはそれで不快に思う方も絶対にいらっしゃるでしょうし、明るくしてもいけない・暗くしてもいけないとなればいよいよ公式のイラストから色をスポイトするしかありません。そうなると、公式から色をスポイトしないようなポリシーを持っているイラストレーターさんは事実上そのキャラクターが描けなくなります。

というかこんだけ騒がれたら、褐色のキャラクターを描くのはやめようという気にすらなってきますよ。私はワンダーエッグ・プライオリティのヒロイン4人のファンアートを描こうかなと思っていましたが、もうねいるは描きませんね。ねいるは褐色のキャラクターであり、今回のような騒動のリスクを排除したいからです。ねいるは好きなキャラクターなのですがね。ああ悲しい。

こうやって褐色のキャラクターが腫れものみたいに扱われて誰も表現しなくなるのは、ポリコレ派が実現したかったことなのでしょうか?今回の件、ポリコレ派の目的それ自体は尊重しますし同意するところもありますが、その手段はとても乱暴で攻撃的だと思いました。本来の目的として「肌の色にももうちょっと感度を上げて配慮してほしい」というのがあり、その手段として、あまり褒められたことではないですが「相手のモラルに訴えかけたり攻撃的な言葉を使う」というのがあったのだと思いますが、どうも初めから攻撃的な言葉を使って気に入らない表現を排除するというようなのが目的化しているように思えてなりません。というか以前からゴネて攻撃的なことを言えば削除や謝罪をしてくれたので、謝罪させるためのメソッドとして定着したみたいな印象を受けます。だって普通何かの交渉って平和的かつ合理的に、双方納得がいくように進めるべきですから。

この間黒人詩人作品でまた騒動、「属性」理由に白人翻訳者の契約解除という記事を読んだ時にも思ったのですが、なんか批判していることが私の感覚とイマイチ合わず(感性が当事者と私で違うので当たり前ですが)、なんでこんなことになっているんだろう?と思わずにはいられません。

何事においても手段の目的化というのは良くありませんし、客観的に見ていてもそのような行動は応援したくありません。本来の目的がどんなに素晴らしくて尊いものであってもです。私はそのように思います。「Your account will be gone by noon. Immediately.(あなたのアカウントは正午までになくなります。すぐに。)」って通知しているのなんて、立派な脅迫行為だと思いますよ。このツイートを見て「ポリコレ派全員が~」などと論うつもりはありませんが、しかしそういう発言を受けてポリコレ派から内部的にも「ちょっと言いすぎだよ」「その発言はまずいよなどと出ていないのであれば、それを問題と思えないのは問題だと思うので、一度意識を改めた方が良いのではないかな~?と思います(私が見ていないだけでそういう意見も内部から出ているかもしれません)。

このような炎上を恐れて褐色のキャラクターの表現がなくなれば今度は人種差別だなどと言いだすかもしれません。しかしそれは人種差差別ではなくポリコレ棒で叩きまわって来た人たちの自業自得なのです。そうやって関係者全員が不幸になるような世界を見たいのでしょうか?私は絶対に嫌です。

本来こういう問題って人によって感度が違うのが当たり前であって、肌の色の違いで苦しんでいた/いる人もいれば私のように何十年も意識せずとも暮らせてきた人もいる訳で、同じような問題意識を持つのって難しいんですよ。少なくとも何百年も前から起こっていた問題が何年何十年という短い期間で完全に解決するのは無理なんですよ。

だから長い時間をかけてみんなが両手両足の届く範囲で問題に向き合うことが大事だと思います。無理して海外に行って生の声を聞こうなんてアクションを起こさなくても2、たとえば隙間時間に歴史をググって概要を理解してみたりとか、そうやって出来る範囲で興味を持って行って歩み寄っていけば良いと思うんですよ。そしてそれは強制されるべきじゃないと思います。

興味ないことに興味を持つことを強制されるのは結構苦痛ですからね。そうやって個々が持続できる程度のモチベーションでちょっとずつ理解していかないと、永久に解決不可能な遺恨だけが残ると思いますよ。

たとえばポリコレ派の人も、そりゃ今回の色の描写はその人たちが望んだような色じゃなかったかもしれないですが、「明るい色じゃなくて若干暗めの色を選んでくれてありがとう。でももうちょっと暗いと思うんだけどどうだろう?僕たちはそれに誇りを持っているんだ」とかそういうポジティブな方向で歩み寄っていけませんかね。そしたら「光が当たっているからこのくらいの明るさになると思って描いたんだけど、ちょっと明るすぎたかな?」みたいな平和的なやりとりができるかもしれないじゃないですか。まぁ言語の壁もあってしっかりと伝えたいことが伝わるかは別問題にしても、最初から喧嘩腰で来られたら無理だって。そうやって双方が気持ちよくやりとりできれば幸せになれると思うんですよね。理想論といわれればそれまでですが。

私だってこの記事を書いていて「黒人っていう言葉は差別用語なのか…?厳密に差別用語という訳ではないようだけど他の言葉に置き換えられるならそっちの方がベターかもな…」とかをいちいち考えながら書いてるんですよ。だから偉いだろ褒めろって訳じゃないですが、そうやって興味を持って調べて体系化して次の世代に語り継いでいけば、我々の世代では無理でも何十年後何百年後にはこのわだかまりも解けているかもしれないじゃないですか。解けていないにしても、今よりはマシになっているかもしれないじゃないですか。そっちの方が幸せだと思うんですよね。

今ムカついたからって一方的に攻撃する必要はないし、当事者の問題感覚が違うからみんなそれぞれの視点では正しいことを主張してるし行動してるんですよ。削除させたり謝罪させたりしたところで、この問題が解決する訳じゃないんですよね。だからもっとお互い寛容な心をもって優しくなろうぜ、時間をかけて歩み寄ろうぜというのが主張したいことでした。なんか変なこと言ってるかな?まぁいいや終わり。


  1. 気になった方は、よければこの騒動にいたった原因であるブラックフェイスの歴史的経緯も調べてみてください。何事も興味を持って手を動かすのが相互理解の第一歩だと強く信じています。もちろん初めから対象を貶したり揶揄したりしようと思っているのであれば論外ですが…。 
  2. もちろん、興味を持ってよりアクションを起こしたい人はすれば良いと思います。それはとても尊いことだと思います。