【夢日記】赤パトの夢

赤パトの夢

私はTV局のジャーナリストで、その日は警察に密着して取材することになっていた。よくある24時間密着のドキュメンタリーのような番組を作るため、警察官の斉藤(仮名)と2~3日行動を共にしていた。

取材の目玉は新しい警察車両だ。真っ赤なパトカーだが、フォルムはまるでカーレースで走るようなスポーツかーのようだ。斉藤はそれを赤パトと呼んでいた。この車は非常時は公道を800km/hまで出して走れるという政府謹製の目玉パトカーで短期間、一定の地域で試験的に運用された後に量産されて全国に投入される予定のものだ。また、それと同時にもう一つ警察車両が試験投入されており、これは真っ赤で巨大な炊飯器のような見た目だった。これは主に公道でパトロールを行うという目的のもので、目立つ外観で市民に警察を意識をさせスピード違反などを未然に防ぐという目的の元投入される予定だが、これも非常時は公道を200km/hまでで走れるという車両になっていた。

この二つの警察車両はなんと変形合体機構を備えており、赤パトの上に炊飯器が乗っかることで巨大なクレーン車のようなフォルムに変形し、運転席はクレーンの一番上にまで移動する。また、その状態では最高で1600km/hで走ることができるそうだ。

私は斉藤の運転する赤パトの助手席に座り、ハンディカメラを回す。当然狭い車内で三脚を立てて固定するということもできないので手で持って撮影。手振れがひどいが編集でいい感じにしてくれるだろう。膝の上にノートとペンを広げて、ICレコーダーの電源を入れる。密着取材開始だ。

しばらく赤パトでパトロールをしていたが、良くも悪くもこれといって絵になりそうなことがない。斉藤は「退屈でしょう、この辺りはだいたいこんな感じですよ。いいことです」と呟いた。そして「でもせっかくなら最高速度で走りたいですね~、なんかねぇかな。…あ、今のオフレコで」と言った。もちろん本気ではなく冗談なんだろうが、警察の中にもこういう軽い感じの人がいるのかと思った。そのまましばらく走ると、斉藤が「あ、前の車ナンバーついてないですね」と言った。前の車といっても500mほど先だ。肉眼では分からない。カメラを最大倍率までズームにしてやっとわかった。確かにナンバープレートがついていない。

斉藤は赤色灯を付けサイレンを鳴らすと、アクセルをべったり踏んだ。え、まさかこの距離で800km/h出すの?と思ったが少し加速してすぐ元に戻した。斉藤はナンバーの付いていない車を停車させ、その運転手と15分ほど話した。私は赤パトの社内でその一部始終を撮影していた。戻ってきた斉藤は「全然いい映像撮れないですよね、なんかすいません」と軽く笑いながら言った。

その後パトロールに戻りしばらくすると、すごいスピードの軽トラに追い抜かれた。100km/hほど出ているのではないか。斉藤は瞬時にそれを認めるとまた赤色灯をつけサイレンを鳴らし、スピードをぐんぐん上げた。道路上の車の間を縫うように走っていく。速度は390km/hほど出ていた。これ、逆に危ないんだが…。しかし斉藤のテクニックは確からしく、これだけのスピードを出しながらも車にも通行人にも一切接触することなく軽トラを追いかけ、あっという間に追いついてしまった。

「ナンバー○○の運転手さん、止まってください。○○の軽トラ止まりなさい」と呼びかけるも、軽トラは止まるどころかますます加速していった。斉藤は「あんにゃろ~」と言いながらさらに加速していく。いやこっちはもう加速しなくていいだろ…と思った。が斉藤は謎のスイッチが入ったようで「クソが…あいつ絶対ぶっ殺すマジで」などと物騒なことを言っていた。「あ、今のオフレコで」わかったよ。

当然数十秒で軽トラに追いつく。軽トラも観念したのか道路脇に停車する。斉藤と一緒に軽トラの方へ行くと、運転していたのは50歳ほどの頭髪が消失したオッサンだった。小太りでタンクトップにトランクス。汗だくになっている。助手席には猫のケージがあり、なかから2匹分のか細い鳴き声が聴こえていた。

「おまわりさん、悪いけどこいつらが弱ってるから先に病院に行かせてくれねぇか」と運転手が口を開いた。それを聞いた斉藤は救急車を呼び猫を預けると事情聴取を始めた。運転手の吉田さん(仮名)は、自宅で飼っている仔猫2匹が急に具合が悪くなり、急いで動物病院へ向かっていたとのことだった。かなりの勢いで猫が衰弱していったため慌ててスピードを出していたようだ。自宅を出る時も急ぐあまり着替えもせず、免許も持ってこず、運転中シートベルトもしていなかったと正直に話していた。「カップ麺も食べかけなんだよ」知るか。

このタイミングで救急車が到着し、猫2匹が搬送された。吉田と応援の警官1人を後部座席に乗せ、赤パトは最寄りの警察署へ向かった。吉田を引き渡してあとは警察署へ引き継ぐのかと思ったが、斉藤が取り調べも行うとのことだった。斉藤と吉田の許可を得て、特別に取調室へ同席しカメラを回した。

「猫ちゃんは2匹とも無事でした。ただの夏バテだったみたいです」と、取り調べの前にまず斉藤が言った。それを聞いた吉田は「よかった…」と誰に言うでもなく呟いたが、斉藤は「猫ちゃんのピンチというのは分かりますが、あなたピークで130キロ出してたんですよ。しかもシートベルトもしてないで。何かあったらあなたも猫ちゃんもペチャンコになってましたよ、気を付けてください」と語気を強めて言った。ちなみにこちらはピークで600km/h出していたが、余計なことは言うまいと黙っていた。吉田は「本当にすいません、ご迷惑お掛けしました」とこうべを垂れた。

「まぁ、それは一旦置いといて」と斉藤が切り出した。小さい透明な袋をいくつか吉田に差し出す。中には白い粉が入っている。「車内から見つかったんですけど、これ薬ですね?」吉田の目を見ながら斉藤が言った。「かなりありますけど、それぞれ何か自分の口で説明してください」。吉田は観念したように、袋を一つ一つ指さして中身を説明していった。聞いたことのある名前の薬物ばかりだった。「自分で使ってるの?」「使ってないです。売ってます」「なら所持やね?」「はい」という会話が続く。心優しいモンスターおじさんかと思ったらヤバい売人だった…。

私はなんだか吉田の見た目、猫を飼っているというギャップ、売人をしているという状況が面白すぎて思わず吹き出してしまった。吉田はそんな私を一瞥して「あぁ?なんだてめぇ!」と言ってきたが斉藤がそれを窘める。「落ち着け吉田、仕方ない」「仕方ないってなんだ!」というコントのようなやり取りが繰り広げられ、私はますます笑ってしまった。

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